おもかさま(石牟礼道子)

 「蓮の花はな」  ものやさしい声でおもかさまが言っている。めずらしいことに家族の会話にはいってきたのだ。  亀太郎がはっと座り直した。  「あい、蓮の花はな」  全員が耳を集中した。  「蓮の花は、あかつきの、最初の光にひらくとばえ。音立てて」  「音立てて、でござりやすか」  「菩薩さまのおらいますような音さてて、花びらが一枚ずつひらく」  「花びらが一枚ずつ」  「一枚ずつ、中に菩薩さまがおらいます」  白象に乗った菩薩さまの絵が床の間にあった。父が時おり、おもかさまは「常の人とはちがう」といって敬うことがこの時わかった気がした。